粉末回折データ前処理アプリ exterm2

(Windows 版)

2020 年 1 月 30 日 更新

1.はじめに

粉末X線回折かいせつデータは(理想的には)回折角かいせつかく diffraction angle 2θ (θ はギリシャ小文字のシータ)回折強度 diffraction intensity I の組からなるものです。しかし,現実の測定では,回折角に相当する検出器角度(Θ はギリシャ大文字のシータ)と,検出されたX線光子のカウント数 Y とを記録する装置が使われます。市販の装置は,近似的に 2Θ ≃ 2θ, Y ≃ I とみなすことができるように良く工夫されているのですが,本質的には 2Θ ≠ 2θ, Y ≠ I であることを前提としなければ,正しく実験データを解釈することは不可能です。

2000 年代以降の半導体一次元X線検出器の急速な普及により,装置の実質的な検出効率は飛躍的(それ以前の約 100 倍程度以上)に増大し,強度評価に関する信頼性が明確に向上する一方で,従来型の検出器を利用する場合と本質的に変わらない「検出器角度が正しい回折角と異なること (2Θ ≠ 2θ)」の影響は,むしろ目立つようになってきました。

実測の粉末回折強度図形は「試料固有の本質的な回折強度図形」と「装置によるぼやけ・収差の影響」の畳み込みとして表現されると言われます。この表現は決定的に間違っているわけではないのですが,装置収差の影響の現れ方は回折角 2θ あるいは検出器角 2Θ によって変化するので,実はそれほど単純な関係にはありません。

(シンクロトロン光でない)通常光源(X線源)を使った実験室型の粉末回折測定装置には,多くの場合に Bragg-Brentanoブラッグ・ブレンターノ 型と呼ばれる共通の装置デザインが用いられます。Bragg-Brentano 型の粉末回折装置による回折強度測定に関する幾何学的・統計学的な性質については既に詳しく調べられています。装置の影響による回折図形の変形の要因として,普通の装置で普通の試料の測定をした場合には,目立つ順に (1) X線源の分光プロファイル,(2) 軸発散収差,(3) 赤道発散収差,(4) 試料透過性収差の影響があげられます。

(1) X線源の分光プロファイルの影響:観測される(記録された)データに現れる装置の影響の中で最も目立つのは,X線の発生源として利用される銅 Cu ターゲットから放出される特性X線の中で最強の Cu Kα(カッパー・ケイ・アルファ) 輻射ふくしゃのスペクトルが Kα1(ケイ・アルファ・ワン) 輻射と Kα2(ケイ・アルファ・ツー) 輻射の「近接する強度比 2:1 の二重ピーク」に分裂することでしょう。
また,Si ストリップ検出器の利用が一般的になり,Cu Kβ(カッパー・ケイ・ベータ) 輻射の影響を軽減するためにニッケル Ni 箔フィルターと組み合わせて用いられることが多くなりました。Ni 箔フィルターは Cu Kβ 輻射を完全に取り除けるものではなく,弱められた Cu Kβ 輻射による弱い回折ピークが残ります。また,Ni K-吸収端による背景強度の飛び(段構造)が気になる場合もあります。
さらに,古い(長い間使い続けた)X線源では,Cu ターゲットに蒸着されたタングステン W からの L 輻射による回折ピークが,弱いながらも明確に出現する場合もあります。

(2) 軸発散収差の影響:入射ビームとして(平行ビームではなく)発散ビームを用いることのうち,軸方向へのビーム発散に由来する部分と,ゴニオメーター軸方向に沿って広がりを持つ回折ビームを検出することに由来する収差で,軸発散効果 axial-divergence effect あるいは軸発散収差 axial-divergence aberrationと呼ばれます。軸発散収差の影響は,入射側と回折側で用いられるソーラースリット Soller slits (積層金属箔スリット)の開き角によって決まります。

(3) 赤道収差の影響:発散ビームを用いることに由来する収差のうちで,赤道方向へのビーム発散に由来する部分が赤道収差 equatorial aberration と呼ばれます。ゼロ次元検出器を用いた Bragg-Brentano 型回折計では,基本的に発散スリット divergence slit の開き角で決まります。試料として厳密にはローランド Rowland 条件を満たさない平板試料を用いることによるので,平板試料収差 flat-specimen aberration と呼ばれていました。一次元検出器を走査しながら,該当する回折角に位置するストリップ強度を逐次積算する使い方の場合には,試料が平板であることだけでなく,検出器中心以外の検出ストリップがローランド条件を満たさないことの影響も受けるので,赤道収差と呼ばれるようになりました。

(4) 試料透過性収差の影響:この収差は装置のみに由来する収差ではなく,試料の性状にも依存します。X線侵入深さ(典型的なケイ酸塩鉱物で 0.1 mm 程度)と比較して無限に厚いとみなせる試料の場合には,試料の線減衰係数とX線源-試料間距離(試料-検出器間距離;カメラ半径)で決まります。

これらの影響は,多重の「非線形スケール変換」と「畳み込み」とによって近似的にモデル化できると考えます。このことに基づいて,実測の粉末回折強度データから,不要なピークや背景強度の段構造,装置収差によるピークシフトや非対称な変形を取り除いて,仮想的に「単一  Cu Kα1  輻射をX線源とする無収差装置」によって測定されたような回折強度データを導くソフトウェアのデモンストレーション版を制作しましたが,ほぼ同時に Si ストリップ検出器の連続走査積算 continuous scan integration により測定された赤道収差の装置関数の近似形式は比較的単純な数式で表されることがわかったので,正しい赤道収差装置関数を組み込んだ新しい版を exterm2 として公開することにしました。

ここでは MS-Windows 10 で動作する実行可能プログラム(exterm2.exe),設定ファイルの例を公開します。

このソフトウェアの機能について制限はかけていません。しかし,利用者がどのようにパラメータを決定・変更すれば良いか,また必要な場合にどのようにパラメータ調整をすれば良いか知るためには,現時点では(未発表のものも含む)原著論文を参照してもらうしかないかもしれません。

このようなソフトウェアの配布を効果的にするためには,インストラクション(操作説明)やチュートリアル(個別指導),ドキュメンテーション(文書)やイラストレーション(図像)などを整備・編集することに多くの労力が必要とされると予想されます。

2.exterm2 の機能

粉末X線回折データ前処理アプリケーション exterm2 は以下の機能を備えます。

(1) Cu Kα2 ピークの除去。

(2) Cu Kβ ピークの除去。ただしパラメータの一部はユーザーが調整する必要があります。

(3) Ni K-吸収端によるバックグラウンドの飛びの除去。ただしパラメータの一部はユーザーが調整する必要があります。

(4) タングステン蒸着により汚染された Cu ターゲットから放出される W Lα,W Lβ ,W Lγ による弱い回折ピークの除去。ただしパラメータの一部をユーザーが調整する必要があります。

(5) X線管球内部の Ni 合金部材に由来する Ni Kα ピークの除去。

(6) 装置の軸発散収差によるピークシフトとピーク形状の非対称な変形の自動修正。ただしソーラー・スリットの開き角はユーザーが正しく設定する必要があります。

(7) 装置の赤道収差によるピークシフトとピーク形状の非対称な変形の自動修正。ただし使用する発散スリット幅と検出器幅は,ユーザーが正しく設定する必要があります。試料面上で入射X線の照射幅より試料幅の方が狭い(ビームがはみ出す)場合・自動可変スリットによる「照射幅一定測定」には基本的には対応しません。

(8)「X線侵入深さに比べて試料が十分に厚い時」の試料透過性収差によるピークシフトとピーク形状の非対称な変形の修正。

3.適用例

標準 Si 粉末 (NIST SRM640c または SRM640d) 試料を3種類の異なる装置 (Rigaku RAD2C, Rigaku MiniFlex 600-C, PANalytical X’Pert Pro MTD) を用いて測定した回折データに対して, exterm2.exe を使って処理を施した例を示します。

3-1 Rigaku RAD2C を用いた測定結果の処理

粉末回折装置 Rigaku RAD2C はリガク社が販売した公称ゴニオメータ半径 185 mm の Bragg-Brentano 型回折計です。X線源は Cu ターゲットのノーマル・フォーカス型(ターゲット面での電子線照射範囲  )のガラス封入管 (Philips, 2233/20 型) で,線焦点 line focus 配置として,取り出し角(take-off angle)6º で用いました。この管球は 20 年近く交換されず使い続けられたもので,熱電子源として用いられるタングステン・フィラメントの蒸着膜が Cu ターゲット上にかなり堆積していると考えられます。発光源の実効焦点サイズは 0.1 mm × 10 mm と見積もられます。加速電圧は 40 kV,放電電流は 30 mA としました。 入射側と回折側に対称的に設置されたソーラー・スリットは,金属箔の間隔と長さの比が 2.5º 相当(リガク社の呼び方では「開き角  5º 」)のものです。

入射ビーム側には,固定角の発散スリット divergence slit(赤道方向発散角制限スリット)として開き角 1.0º のものを用いて,回折ビーム側には同じ開き角の散乱スリットを用いました。検出器としてはシンチレーション計数器を用い,検出器側焦点位置には開き幅 0.15 mm の受光スリット(受光角度制限スリット)を設置しました。受光スリットとシンチレーション検出器の受光面との間(受光スリットの直上)の位置に公称厚さ約 0.02 mm の Ni 箔を挿入し,Cu Kβ 線を減衰させるためのフィルターとして用いました。

NIST SRM640d 試料粉末を公称深さ 0.5 mm のガラス製試料板の凹部に充填し,凹部容積の実測値と秤量値,Si の質量減衰係数から見積もられたX線侵入深さは μ–1 = 0.177 mm でした。

自作の測定制御プログラムを使い,検出器角度 2Θ: 5º–145º の範囲を 0.02º 間隔でステップ走査しました。ステップごとの計数時間は 1 s として 100 回の走査を繰り返し,積算したデータ 00raw.csv とします。 設定ファイル *.cfg を examples/rad2c の中にまとめています。実質の走査測定時間は 194 h,約 8 日間であり,ステップ走査・繰り返し測定のため,実際には測定に使われない空走時間がそれに少し加わります。

Figure 3.1 に RAD2C を用いて測定された Si の粉末回折データと処理結果を示します。この処理による強度図形の変化は概ね予想通りの結果です。

Figure3.1 Rigaku RAD2C を用いて測定された粉末X線回折データ(上パネル;赤線)と処理後のデータ(下パネル;青線)。(a) 全回折データ,(b) Si 111 反射ピーク,(c) 422 反射ピーク,(d) 533 反射ピーク,(e) バックグラウンド強度の変化を示す。

この測定データには,Cu Kα 線と Cu Kβ 線,Ni K 吸収端での背景強度の飛びだけでなく,W Lα 線,W Lβ 線,W Lγ 線の一部による回折線も明瞭に現れている特徴がありますが,これらのことを認めさえすれば,影響の現れ方のかなり軽減された図形を得る手段が現実に存在することが示されています。2Θ ≃ 18.6º  で処理後のデータの背景強度に異常な挙動が現れていますが,現時点では,まだこの原因ははっきりとはしていません。

3-2 Rigaku MiniFlex 600-C を用いた測定結果の処理

粉末回折装置 Rigaku MiniFlex 600-C は,ゴニオメータ半径 150 mm の卓上型 Bragg-Brentano 回折測定装置です。X線源は Cu ターゲットのノーマル・フォーカス型ガラス封入管 (Canon Electron Tubes & Devices, A-21-Cu) で,線焦点配置,取り出し角 6º なので,発光源の実効焦点サイズは RAD-2C と同じ 0.1 mm × 10 mm です。加速電圧は 40 kV,放電電流は装置の最大定格の 15 mA としました。 入射側と回折側に設置されたソーラー・スリットは,金属箔の間隔と長さの比が 1.25º 相当(リガク社の呼称では「開き角 2.5º」)であり,軸発散はやや極端に制限された設定となっているかもしれません。

入射ビーム側に,赤道発散を制限する固定角の発散スリットとして開き角 1.25º のものを挿入しました。検出器としては Si ストリップ型検出器(Rigaku D/teX Ultra2)を用いました。この検出器は 0.1 mm 間隔で配置された 128 本のストリップ型検出素子と信号処理回路がユニット化されたもので,1本の検出ストリップ素子が開き幅 0.1 mm の受光スリットを設置した場合と同等の働きをすることが期待できます。回折ビーム側には,装置に標準で付属する公称厚さ 0.023 mm の Ni 箔を挿入し,Cu Kβ 減衰フィルターとして用いました。

NIST SRM640d 試料粉末を公称深さ 0.5 mm のガラス製試料板の凹部に充填し,凹部容積の実測値と秤量値,Si の質量減衰係数から見積もられたX線侵入深さは μ–1 = 0.177 mm でした。

測定制御・強度積算には装置に標準添付されたソフトウェア (Rigaku Smart Lab Studio II) を用いました。(名目)検出器角度 2Θ: 4.39º–142.9º  の範囲を 0.2º/min の走査速度で連続走査し,0.01º ステップで強度サンプリングをしました。ステップごとの計数時間は 3 s に相当しますが,128 ストリップのカウント数が積算されるので,実質的な計数時間はステップあたり 384 s = 6.4 min に相当します。実際の測定時間は約 12 h でした。

Figure 3.2 に MiniFlex を用いて測定された Si の粉末回折データと処理結果を示します。この測定データには Cu ターゲットの W 汚染によるピークは認められず,観測される強度図形を複雑なものとする要因としては, Cu Kα2 線と Cu Kβ 線,Ni K-吸収端とだけが明確なものです。これらの影響は RAD2C のデータを処理した方法と同じ方法で軽減されています。

Fig. 3.2 MiniFlex 600-C を用いて測定された粉末X線回折データ(上パネル;赤線)と処理後のデータ(下パネル;青線)。(a) 全回折データ,(b) Si 111 反射ピーク,(c) 422 反射ピーク,(d) 533 反射ピーク,(e) バックグラウンド強度の変化を示す。

この処理の結果では,2Θ ≃ 18.8º で処理後のデータの背景強度に異常な挙動が現れていますが,現時点では,この原因ははっきりとはしていません。

3-3 PANalytical X’Pert Pro を用いた測定結果の処理

粉末回折装置 PANalytical(現在 Malvern-Panalytical) X’Pert Pro MTD は,ゴニオメータ半径 240 mm の Bragg-Brentano 回折測定装置です。X線源は Cu ターゲットのマイクロ(ファイン)・フォーカス型ガラス封入管 (PANalytical, PW3050/60) で,線焦点配置,取り出し角 6º であり,発光源の実効焦点サイズは 0.04 mm × 8 mm です。加速電圧は 45 kV,放電電流は 40 mA としました。 入射側と回折側に設置されたソーラー・スリットは,金属箔の間隔と長さの比が 2.29º 相当(PANalytical 社の呼び方では 0.04 rad)です。

入射ビーム側に,固定角の発散スリットとして開き角 0.5º のものを挿入しました。検出器としては Si ストリップ型検出器(PANAlytical, X’Celerator)を用いました。この検出器は 0.075 mm 間隔で配置された 128 本のストリップ型検出素子と信号処理回路がユニット化されたものです。回折ビーム側には,公称厚さ 0.02 mm の Ni 箔を挿入し,Cu Kβ 減衰フィルターとして用いました。

NIST SRM640c 試料を公称深さ 0.5 mm のガラス製試料板の凹部に充填し,凹部容積の実測値と秤量値,Si の質量減衰係数から見積もられたX線侵入深さは μ–1 = 0.168 mm でした。

測定制御・強度積算には装置に標準添付されたソフトウェア (PANalytical, Data Collector) を用いて,(名目)検出器角度 2Θ: 9.986º–144.996º の範囲を連続走査しました。制御パラメーターとしては,概ねデフォルト値を用い,0.0167º ステップで強度サンプリングをしました。出力データファイルにはステップごとの計数時間は 50.8 s  と記録されました。PANalytical 社の装置に関する幾何学的な情報やデータ積算プログラムの詳細について正確な情報を得ることは困難です。ゴニオメーター半径が約 240 mm であることは確認できますが,強度サンプリングが 0.0167º ステップとされた意図は不明です。ストリップ幅 0.07 mm を仮定して (0.07 mm)/(240 mm)×180º/π = 0.0167º という関係から導かれたかと想像される一方で,ストリップ間隔は 0.075 mm という情報もあり,いずれにしてもナイキスト Nyquist の標本化定理からは,情報の欠落が生じうる設定になっている可能性があります。

Figure 3.3 に PANalytical X’Pert Pro MTD を用いて測定された Si の粉末回折データと処理結果を示します。この測定データでは Cu ターゲットの W 汚染によるピークは明確には現れていませんが, Ni K 輻射に由来する2つのピークが 2Θ〜30.2º, 30.9º  に現れています。これらの影響は Cu K 輻射と発光位置の異なる Ni K 輻射発光点がX線管球内部に存在すると仮定することを仮定することによって軽減されています。

Figure 3.3 PANalytical X’Pert Pro MTD を用いて測定された粉末X線回折データ(上パネル;赤線)と処理後のデータ(下パネル;青線)。(a) 全回折データ,(b) Si 111 反射ピーク,(c) 422 反射ピーク,(d) 533 反射ピーク,(e) バックグラウンド強度の変化を示す。

4.アプリケーションの使い方

4-1 exterm2 デモ・パッケージの内容

exterm2 デモ・パッケージでは,実行形式のファイルとデモ用のデータ,設定ファイルなどをまとめて,以下のようなフォルダ(ディレクトリ)の構成としています。

4-2 Windows PowerShell の利用

以前の Windows で CUI (character-based user interface) アプリケーションを利用する場合には「コマンドプロンプト (cmd.exe)」を利用する場合が多かったのですが,現在の Windows では,その代わりに Windows PowerShell (パワーシェル)あるいは Windows PowerShell ISE  (パワーシェル・アイス) を用いることが推奨されるようです。日本語 Windows 10 の標準的な設定では,画面左下隅の[スタート]アイコンから Windows PowerShell か Windows PowerShell ISE を選択できます。ISE は統合スクリプティング環境 (integrated scripting environment) と言う意味で,PowerShell スクリプトを利用してかなり高度なプログラミングもできるようです。CUI アプリケーションを起動するためだけなら ISE を使う必要はないかもしれませんが,ISE には予測入力や文脈による色分け表示などの機能が付き,通常の使用の仕方での操作感は良好です。

コマンドプロンプト cmd.exe と比べて PowerShell の方が少し機能が制限され,PowerShell ISE はさらに少し機能が制限される面もあるようなので,必要に応じて切り替えて使用すると良いかもしれません。

4-3 Windows PowerShell のプロンプト操作

Windows PowerShell のプロンプト(入力要求)は,例えば以下のように表示されます。

日本語 Windows では,PowerShell のデフォルトのフォント(字体)として「MS Gothic 9 ポイント」などが選択されるので,円記号(¥)と,バックスラッシュ(\)が同じ文字 (¥)で表示されてしまいます。区別できるようにするために PowerShell ではウィンドウ左上隅の[PowerShell] アイコンをクリックして「プロパティ」から “NSimSun” フォント, PowerShell ISE では「ツール」メニューから「オプション…」を選択して, “Courier New” などのフォントを選択すれば,

のようにディレクトリ(フォルダ)名を区切る記号がバックスラッシュ(\)として正しく表示されるようになります。

日本語キーボードで「バックスラッシュ」の入力が困難な場合でも,PowerShell でファイル操作をする場合には,プロンプトに対してバックスラッシュ(\)の代わりにスラッシュ (/)を使うことができます。例えばプロンプトに対して

とタイプ入力すれば,自動的に

と変換されます。

また ISE では,スラッシュ(/)をタイプした時に,階層が下のサブフォルダとファイルの一覧がポップアップメニューとして表示されるので,タイピングが苦手でも,マウスやカーソル操作で目的のフォルダやファイルを選んでリターン・キーだけをヒットするような操作が可能です。タイピングが苦手でない人でも,フォルダ・ファイルの名称がうろおぼえな場合や,「1」「l」「I」などの紛らわしい文字が名称に含まれる場合など,正しい名称を確認しながら深い階層にたどれるので便利でしょう。

Windows PowerShell では Unix 系のコマンドもかなり使えるので,Unix ユーザーやMac OS X ユーザーにも馴染みやすい面があります。CUI アプリケーションを利用するためであれば,最低2つのコマンド ls と cd を知っていれば良いでしょう。

フォルダの構成が複雑な場合には Windows 標準 GUI(graphical user interface)ファイル・ブラウザである「エクスプローラー」  で構成を確かめながら探すことも効果的です。日本語 Windows の「エクスプローラー」では Users ディレクトリは「ユーザー」,Documents ディレクトリは「ドキュメント」と表示されることには注意した方が良いかもしれません。

Windows PowerShell では

も使えます。

4-4 exterm2 デモの実行

Windows PowerShell で,配布パッケージの exterm2 ディレクトリ(フォルダ)に移動します。フォルダの内容を

として確認し,さらにその下層にある examples\mnflx または examples\rad2c, examples\xpert に移動します。ここでは RAD–2C データを処理することとして,

とタイプ入力します。ここで

とタイプ入力して,以下の4ファイルが含まれていることを確認します。

ここでは Si 粉末を測定した際の装置と測定条件について既に概ね適切なパラメータの設定は済んでいます。実使用の際には測定に用いた装置や測定条件に合わせて設定ファイルの内容を書き換える操作が必要となります。

このデモ版でアプリケーション exterm2.exe  (エクスターム・ワン・ドット・エグゼ)を起動するためには,強度データと設定ファイルの納められたサブディレクトリから

とタイプします。上の行の赤字部分をコピーして PowerShell のプロンプト位置でペーストしても良いでしょう。コマンドライン・アプリケーション exterm2.exe は二つの「コマンドライン引数」を受け入れ,第1引数は入力データファイル名,第2引数は出力データファイル名としますが,第2引数が省略された場合には出力ファイル名をデフォルトの 01dct.csv (ゼロ・ワン・ディー・シー・ティー・ドット・シー・エス・ヴィー)と設定し,第1引数も省略された場合にはデフォルトの入力ファイル名 00raw.csv (ゼロ・ゼロ・ロー・ドット・シー・エス・ヴィー)を仮定します。以下の3通りの表現は,すべて同じ動作をします。

環境にもよりますが,数秒程度でアプリケーションの動作は完了し,新しいプロンプトが表示されます。

とタイプ入力して,新しく

というファイルが生成されていることを確認します。

5.処理結果の確認

5-1 マイクロソフト・エクセルでのデータの読み込み

入力強度データと処理後の強度データはいずれも *.csv 形式(カンマ区切り値 comma-separated values テキスト・ファイル)とします。Microsoft Excel がインストールされていれば, *.csv 拡張子を持つファイルはデフォルトで Excel に関係付けられる場合が多いでしょう。

*.csv ファイルを日本語版 Excel で開くには,エクスプローラーからファイルのアイコンをダブルクリックするか,Excel の「ファイル」メニューから「開く」を選ぶのでも良いのですが,複数のデータを同じブックに読み込むためには, Excel の「データ」メニューから「データの取得」→「ファイルから」→「テキストまたは CSV から」を選択し,*.csv ファイルを選択して「インポート」→「読み込む」とすれば,新しいスプレッドシート上に表形式でデータが表示されます。

5-2 マイクロソフト・エクセルでのデータの描画

00raw.csv データの2つのカラム(列)と 00dct.csv の強度データのカラムを選択した状態で,Excel の「挿入」メニューから「散布図」を選択すればグラフを描画することができます。

6.設定ファイル *.cfg

逆畳み込み・畳み込み処理は dct.cfg,xray.cfg,cntmn.cfg の3つの設定 configuration ファイル中のパラメータにより制御されるので,これらを書き直せば任意の条件で測定されたデータに適用できます。

6−1 装置収差パラメーターファイル dct.cfg

装置収差(軸発散収差・赤道収差・試料透過性収差)処理に関するパラメータと,全体の挙動を制御するためのフラグなどをまとめたファイルです。

名称は deconvolution-convolution あるいは deconvolutional からとりました。

6−2 X線パラメーター・ファイル xray.cfg

X線源の分光プロファイルをモデル化するためのパラメーターをまとめたファイルです。

当初はタングステン W 汚染による微小ピークの特徴は別の cntmn.cfg に記載していましたが,汚染 W とCu ターゲットとで発光点の位置はほぼ同一とみなせることから,汚染 W によるピークの特徴も,必要であればこのファイルに記載します。

6−3 汚染パラメーター・ファイル cntmn.cfg

X線管球内の汚染による偽ピークの特徴を記述するための設定ファイルであり,発光点位置が Cu ターゲットからずれている場合にも対応します。

Phillips (Panalytical) 社の管球では,発光点の異なる Ni K 輻射ピークの出現する場合があり,これを除去するために必要になります。Canon Electron Tubes & Devices (Toshiba) 社の管球でも必要であるかは明確ではありません。

7.参考文献

Ida, T., Ono, S., Hattan, D., Yoshida, T., Takatsu, Y. & Nomura, K. (2018). “Deconvolution-convolution treatment on powder diffraction data collected with Cu Kα X-ray and Ni Kβ filter,” Powder Diffr. 33, 80–87.

Ida, T., Ono, S., Hattan, D., Yoshida, T., Takatsu, Y. & Nomura, K. (2018). “Removal of small parasite peaks in powder diffraction data by a multiple deconvolution method,” Powder Diffr. 33, 108–114.

Ida, T., Ono, S., Hattan, D., Yoshida, T., Takatsu, Y. & Nomura, K. (2018). “Improvement of deconvolution-convolution treatment of axial-divergence aberration in Bragg-Brentano geometry,” Powder Diffr. 33, 121–133.

Ida, T. (submitted). “Application of deconvolutional treatment to powder diffraction data collected with a Bragg-Brentano diffractometer with a worn-out X-ray tube and a Ni filter,” Powder Diffr.

Ida, T. (submitted). “Equatorial aberration of powder diffraction data collected with a Si strip X-ray detector by a continuous scan integration method,” Powder Diffr.